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米の高温障害

2010年に、水稲で、高温障害による白未熟粒が多発しました。とりわけ、埼玉県が育成した品種である「彩のかがやき」の品質低下が著しく、経済的な損害も発生しました。この年の熊谷気象台における8月の平均気温は29.3℃で、平年値を2.5℃上回り、観測史上1位を記録しました。この夏の猛暑が水稲の高温障害を引き起こしたと考えられています。2010年の極端な高温障害は、特別な出来事だと思われますが、夏季の気温と1等米比率との間には負の相関があり、温暖化の進行は米の生産にマイナスの影響を与えると考えられます。




強雨頻度の変化

埼玉県における年降水量は、年による変動が大きく、一定の変化傾向は確認できません。また、短時間に降る強い雨についても、下図のとおり年による変動が大きくなっています。河川整備や下水道整備等により浸水リスクが低減され続けているため、浸水被害の増加が顕在化しているわけではありませんが、将来、強雨頻度が増えることが予測されており、潜在的なリスクは高くなると考えられます。




熱中症搬送者数の増加

暑熱環境の悪化による健康影響も顕在化しています。埼玉県における熱中症による搬送者数は、2010年以降特に増加し3000名前後の高いレベルで推移していましたが、2018年には、はじめて6000名を超えました。

埼玉県における熱中症搬送者数と搬送後の死亡者数の推移

熱中症搬送者数と気温との関係は明らかで、日最高気温が30℃を超えると搬送者数は増加し、35℃を超えると急増します。今後、夏の猛暑が激しさを増すと、熱中症によるリスクはさらに高まると考えられます。

熱中症搬送者数と気温との関係



シカ個体数の増加

気候変動による影響が疑われる現象の一つとして、ニホンジカの増加が挙げられます。埼玉県内のニホンジカ捕獲頭数は、1990年度は114頭でしたが、その後急増し、2021年には5000頭を超えました。

埼玉県におけるシカ捕獲頭数の推移
埼玉県におけるシカ捕獲頭数の推移

全国的にもニホンジカの増加や分布拡大が起きていますが、それらに温暖化が寄与していることが指摘されています。ニホンジカは大型草食ほ乳類で、様々な植物を大量に食べるため、個体数の増加が自然の植生に大きな悪影響を与えています。埼玉県と山梨県の県境の亜高山帯には、シラビソ・オオシラビソの針葉樹林帯が広がっていますが、広い範囲で皮を剥いで食べる被害が発生し、森林衰退も起きています。

針葉樹林の樹皮がシカなどによって食べられている
針葉樹林の樹皮がシカなどによって食べられている

下層植生も広く食害し、スズタケなどササが衰退する一方で、ハシリドコロやトリカブトといった有毒植物のみが残る林も増加しています。

シカの増加で変わったしまった下層植生
ハシリドコロとトリカブト

さらに、ニホンジカの増加とともに、ササなどの植生を好む鳥類のヤブサメやウグイスなどが減少するとの報告もあります。この様に、植物だけではなく、動物への影響も懸念されています。

シカの増加で減少する鳥類



南方系昆虫の侵入定着

近年、以前は県内に生息していなかった南方系の生物が侵入・定着する事例が増えています。代表的な生物が、チョウ類のムラサキツバメとツマグロヒョウモンです。

ムラサキツバメ

ムラサキツバメの埼玉県における最も古い記録は、1978年の狭山市の記録ですが、その後2000年まで新たな記録はありませんでした。しかし、2000年以降、記録が急増し、現在は関東地方の平地で広く生息が確認されております。

ムラサキツバメ

ツマグロヒョウモン

以前は埼玉県では稀であったツマグロヒョウモンも、2000年以降、急増し、今や最も普通に見られるチョウになってしまいました。ツマグロヒョウモンの幼虫はスミレの仲間を餌としており、園芸スミレであるパンジーも食害するため、パンジーの生産量が国内で最も多い埼玉県では、県農林部が、2008年に注意報(予察報)を発表し農家にツマグロヒョウモンへの注意を呼び掛けました。

ツマグロヒョウモン