熊谷スポーツ文化公園における暑熱対策とその検証

2019年にラクビーワールドカップが日本で開催されました。埼玉県熊谷市の熊谷スポーツ文化公園内にある熊谷ラクビー場も会場の一つに選定されました。開催時期は、晩夏ですが、かなりの暑さも想定されます。そこで、埼玉県では、熊谷ラクビー場を訪れる観客の暑熱環境緩和を目的に、集中的に対策を実施することを決めました。

具体的には、駐車場からラグビー場に至る観客動線に対し、高木の並木や、緑地(小森のオアシス)を整備し、木かげを創出するとともに、園路にも遮熱舗装を行うこととしました。

また、対策工事を行うだけではなく、暑熱対策を行ったときの効果の定量的な把握と、事業の最適化を目指し、文部科学省気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)の一環として、埼玉県環境科学国際センターと海洋研究開発機構(JAMSTEC)等が共同で、JAMSTECが開発した大気海洋結合モデルMSSGを用い、熊谷スポーツ文化公園の詳細な暑熱環境シミュレーションや、検証のための気象観測などを進めました。

シミュレーションの結果、木かげ整備などを行うことで、緑陰が約40%増加すること、対策領域の気温は平均0.7℃程度低下し、熱中症指標となる暑さ指数で、「厳重警戒」又は「危険」となる地点が20%減少すること、アスファルト舗装に比べ、遮熱舗装の表面温度は日なたで約9℃低下することなどが明らかになりました。また、並木道の樹木配置については、事前に、複数の植え方を想定したシミュレーションを行い、より暑熱環境改善効果が高い選択肢を示し実際に施工にも反映されました。

対策効果

施工後の2019年8月に、対策効果の検証のため、気象観測およびサーモグラフィカメラによる熱赤外画像の撮影を行いました。

気象観測は、熊谷スポーツ文化公園内のバックグラウンドデータ取得のための開けた芝生上1地点(下図の1)と、暑熱対策を実施した箇所2地点(下図の2、3)で観測を行いました。

熊谷スポーツ文化公園内の観測地点

それぞれの地点に、下記の写真のように自動気象観測装置(気温、湿度、気圧、風向風速、日射量の計測)、暑さ指数計、放射収支計(上向き短波、下向き短波、上向き長波、下向き長波)、近藤式強制通風温度計(強制通風の乾球温度)を設置し観測を行いました。

気象観測の様子

以下に、暑さ指数の観測結果を示します。8月8日11時から14時(180分)の間で暑さ指数の日常生活に関する指針が「厳重警戒(暑さ指数が28℃以上)」となる時間が、未対策地点では102分でしたが、対策を施した地点では72分と30分減少していました。暑さ指数の低下は、黒球温度の低下が主要因であり、主に木陰による日射の遮蔽によるものと考えられます。

暑さ指数の推移(2019年8月8日、高さ0.5m)

さらに、サーモグラフィによる観測の結果を示します。サーモグラフィによる観測結果では、対策箇所の表面温度は未対策箇所と比較して平均で約15℃低くなりました。シミュレーション結果では10℃程度の差でしたが、観測時の日最高気温は38.2℃であり、観測時の方がシミュレーションの想定より気温が高かったため、さらに大きな差になったと考えられます。 このような暑熱対策への取組も、適応策の一事例です。このような暑熱対策への取組も、適応策の一事例です。

サーモグラフィによる観測結果 (左:熱赤外画像、右:可視画像)

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