気候変動コラム「蛇足の靴」

#4 脱炭素エネルギーの盲点

脱炭素電源

 観測史上最も暑い夏の記憶も、冬の寒さの中で忘れかけている方も少なくないでしょう。しかし、自国ファーストの掛け声と共にパリ協定から離脱する国が出ようとも、カーボンニュートラルに向けた温室効果ガス(GHG)削減の歩みを進めることを忘れてはならないと思います。

  パリ協定に基づく我が国の新しい削減目標は2035年、60%、2040年、73%となり、この削減目標の達成に大きく影響する第7次エネルギー基本計画も決定しました。2040年の電源構成見通しは、原子力の割合は2割程度と前計画から変えずに、再生可能エネルギー(再エネ)を4~5割と拡大するものです。つまり、脱炭素電源の割合を6~7割にすることになります。原子力については、安全性や核廃棄物の問題など十分に議論を尽くしてほしいと思いますが、脱炭素エネルギーが大幅に増えることは、GHG排出量を削減する上で非常に有効です。

 しかし、それで問題はすべて解決するのでしょうか。脱炭素電源は、それをエアコン、自動車などのエネルギー源として従来どおり使用しても確かにCO2は排出しませんが、排熱は発生します。都市部の暑熱環境においては、地球温暖化と共にヒートアイランド現象による気温上昇が問題となっています。その大きな原因の一つが人工排熱の増加です。脱炭素電源だからといって従来どおりエネルギーを使い続ければ、人工排熱は減らずに都市の暑熱環境は改善せず、そのため、エアコンなどのエネルギーを使い続けるという悪循環から抜け出せなくなるのはないでしょうか。図は、そんな状況をイメージ化したものです。

 では、どうしたらいいのでしょうか。廃熱を大気中に出さず、地中に戻してやる地中熱利用システムを活用することも当面の方策です。抜本的には、脱炭素電源であれ、化石燃料電源であれ、エネルギーの使用量自体を削減することです。要は省エネルギー(省エネ)です。省エネというと日本では「我慢」のイメージが強いように感じます。エネルギー効率を上げること、つまり、少ないエネルギーで同じ便益を得るようにしていくことをもっと追及すべきではないでしょうか。勿論、エネルギー基本計画においても省エネ目標は設定されています。しかし、あまり注目されません。2040年に向けて、私たちは社会のエネルギー効率をどこまで上げていけるのか。もっと、議論すべき問題です。

 同時に、ヒートアイランド現象を緩和していくためには、人工排熱を減らすと共に、土の地面や草地、樹木、水面など都市に自然を増やすことも重要です。それは都市内の生態系向上にも寄与します。脱炭素電源の拡大ばかりに目を向けるのではなく、ヒートアイランド現象の緩和にも目を向けることは、カーボンニュートラルとネイチャーポジティブの同時達成にも寄与することにもなるのです。

脱炭素とヒートアイランド

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【筆者プロフィール】

 星野 弘志 氏(NPO法人環境ネットワーク埼玉 代表理事)

元埼玉県環境部長。現在はNPO法人環境ネットワーク埼玉(埼玉県地球温暖化防止活動推進センター)の代表理事、埼玉県環境科学国際センター客員研究員を務めるほか、埼玉グリーン購入ネットワーク会長、埼玉環境カウンセラー協会副会長などとして幅広く環境啓発活動などに取り組む。

◎星野氏経歴の詳細はこちら: (環境カウンセラーのサイトに移動します) 

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