気候変動コラム「蛇足の靴」

#1 環境用語について思う

今年の夏の暑さ、その期間の長さについては説明するまでもないだろう。熱中症救急搬送者数は過去最大であった2018年をついに超え、10万人に迫る勢いである。

 熱中症対策については、ここ数年、暑さ指数(WBGT)の情報提供、それを活用した熱中症警戒アラート発令制度の運用開始、さらには学校や職場での各種予防策の充実など、かなり強化されてきたにも関わらず、こうした結果を招いてしまったところである。いかに暑熱環境が過酷になってきたかである。

 

 熱中症の死者数の増加はそれを物語っており、自然災害による死者数よりはるかに多く、優に1,000人を超えるレベルまで増加している。さらには、気候変動関連死と言われる死亡者数は、その7倍のレベルに上るという研究結果も発表されている。

熱中症救急搬送者数の推移

 埼玉県気候変動適応センターのコラムへの初めての寄稿で、「適応」という言葉にちゃちを入れるようで少しはばかれるが、事態は「適応」などというレベルではなくなっているのはないか。そう感じるのは私だけであろうか。

 昨年、国連のグテーレス事務総長は近年の異常気象が頻発する状況を受けて、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来した」と警鐘を鳴らした。これを耳にしたとき、15年程前の川口市の取組を思い出した。残念ながら故人となられた当時の岡村川口市長は、気候がほどよく暖かく過ごしやすさをイメージさせる「地球温暖化」ではなく、世界の喫緊の課題を市民と共有するにふさわしいものとして「地球高温化」という用語を提唱し、川口市ではこの言葉が使われた。私は、「高温化」という言葉には当時は多少違和感を覚えたが、今となっては岡村氏の先見の明を感じるところである。

 「沸騰」にせよ、「高温化」にせよ、その適切性については疑問がある人も多いと思う。しかし、一般の人々に与える言葉のイメージは、気候変動問題が私たちに与える深刻な影響をより的確に伝えうるようにも思われる。

 となると、「適応」に替わる用語としては何がよいのだろうか。今のところ、「防衛」や「防御」当たりしか思い浮かばない。気候変動による影響を少しでも防き、生命や生活、環境を守るという趣旨である。より適切な言葉があれば是非ご教示いただきたい。

 とはいえ、「脱炭素社会」という用語に対する日本化学会の批判に見られるように、イメージやインパクトを優先すると、本質から逸脱してしまうおそれもある。いやはや、「環境用語」とは難しいものである。

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筆者プロフィール】

星野 弘志 氏 (NPO法人環境ネットワーク埼玉 代表理事)

 元埼玉県環境部長。現在はNPO法人環境ネットワーク埼玉(埼玉県地球温暖化防止活動推進センター)の代表理事、埼玉県環境科学国際センター客員研究員を務めるほか、埼玉グリーン購入ネットワーク会長、埼玉環境カウンセラー協会副会長などとして幅広く環境啓発活動などに取り組む。

 

◎星野氏経歴の詳細はこちら:

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    https://edu.env.go.jp/counsel/counselor/2012111001

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