気候変動コラム「蛇足の靴」

#2 自動閉栓機能付きの蛇口

 数年前に浴槽をリニュールする際に自動閉栓機能付きの蛇口を付けた。それまで、何度かお湯を止め忘れて溢れさせしまい、貴重な水資源を浪費してしまっていた。年を重ねる程に夫婦共々忘れっぽくなる我が家には今やなくてはならないものとなっている。気候変動対策において決定的10年(Decisive Decade)と言われる2021年~2030年のこの時期に、CO2排出量の増加にもつながる行為を防止できたことは嬉しい。

 決定的10年とは、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃以内に抑え、2050年までにカーボンニュートラルを実現するために決定的な意味合いを持つ期間という意味である。パリ協定に基づき、既に150に近い国や地域が2050年カーボンニュートラルという目標を掲げ、2070年までを期限とするものも含めると、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約90%を占める国や地域がカーボンニュートラルを宣言していることになるという。しかし、現実はどうだろう。決定的な10年も既に5年目に突入した現在、世界全体のGHG排出量は一向に減少傾向を示していない。このまま進むと一体どうなるのだろうか。
 温度上昇を一定値以内に抑えるには、排出できるCO2量が決まってくるというカーボンバジェット(炭素予算)という考え方がある。つまり、CO2は無限に排出できる訳ではなく、予算のように一定の限度があるということを意味している。この意味合いをバスタブと蛇口から出るお湯の関係で説明したのが、下図である。

カーボンバジェットの試算例

 

 IPCC第6次評価報告書によると、1.5℃以内に抑えるのに、2019年時点で残されたCO2の許容容量は400Gt(ギガトン、4,000億トン)と推計される。これは図ではバスタブの残容量に当たる。一方、世界の年間CO2排出量(土地利用由来を含む。)は約43Gtと推定され、これは蛇口から勢いよく出ているお湯の供給量である、となると、ケースAのとおり、バスタブが一杯になるには、あと9.3年しかなく、2030年前後にはバスタブからお湯が溢れ、世界の平均気温の上昇幅は1.5℃を超えてしまうことになる。
 そこで、ケースBのとおり、蛇口を締めてお湯の供給量(CO2排出量)を減らしていく必要がある。しかも、2050年近くになって急に蛇口を締めてもダメなことは、ケースAの図を見れば明らかである。蛇口を着実にしぼっていき、2030年には、お湯の供給量(CO2排出量)をほぼ半減させる必要があるのである。
 しかし、残念ながらCO2排出の蛇口には自動閉栓機能は付いていない。常にバスタブの状態を意識しながら、蛇口を締めていくことが求められている。しかも、上図には蛇口は1つしか描かれていないが、現実には、200か国・地域を超える蛇口がある。

  巳年の来年こそ、これらの蛇口を世界中の人たちがもっと意識し管理するようになることを祈りたい。

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筆者プロフィール】

星野 弘志 氏 (NPO法人環境ネットワーク埼玉 代表理事)

 元埼玉県環境部長。現在はNPO法人環境ネットワーク埼玉(埼玉県地球温暖化防止活動推進センター)の代表理事、埼玉県環境科学国際センター客員研究員を務めるほか、埼玉グリーン購入ネットワーク会長、埼玉環境カウンセラー協会副会長などとして幅広く環境啓発活動などに取り組む。

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