研究紹介:地域経済成長の超長期推計(1)―少子高齢化と生産性低迷のインパクト
埼玉県気候変動適応センターでは、埼玉県内における将来の気候変動影響の研究に取り組んでいます。その研究成果の概要をお知らせします。
地方自治体が気候変動対策に取り組む場合、しばしば数十年後の社会を見据えて計画を策定する必要に迫られます。計画策定における困難な作業のひとつとして、人口と経済生産に関する将来見通しの作成が挙げられます。人口と経済生産は、温室効果ガス排出量や気候変動影響と密接に関連する重要な指標であり、適切な方法で将来見通しを作成しなければなりません。地域別人口については、国立社会保障・人口問題研究所や国立環境研究所による推計結果がインターネット上で公開されています。一方、地域別の経済生産については、公的機関による推計が行われておらず、計画策定のたび、地方自治体が個別に推計を行う状況が続いています。このような状況を打開し、計画策定のプロセスを効率化するため、環境科学国際センターでは47都道府県の経済成長を予測するための統計モデル(図1)を開発し、2100年までの超長期推計を行っています。
図1 都道府県経済成長モデル(ver. 1)の概要
注:モデルの詳細はHonjo et al.(2021)を参照のこと。また、日本SSPの詳細はChen et al.(2020)を参照のこと。日本SSP人口データは、国立環境研究所が運営する気候変動適応情報プラットフォームで公開されている。
経済はきわめて複雑なシステムであり、その全体を細部に至るまでモデル化することは困難です。モデルが複雑化すると、結果の解釈が難しくなるほか、将来見通しの作成に必要となるデータ量が増大し、データの不足に悩む地方自治体の現場に適さないツールになってしまいます。私たちが開発したモデルは、労働と資本の投入量から生産を予測する古典的なモデルを拡張したものであり、入力と出力の関係を容易に説明できます。また、時系列分析の手法を取り入れており、生産性の経年変化を把握することができます。図2は1都6県の全要素生産性(TFP)を推定した結果です。TFP は、労働と資本の投入 量を固定した場合にどの程度効率的に生産できるかを表す係数です。産業部門では、TFPが2000年代に上昇しており、生産の効率化が一定程度進んだことが分かります。一方、業務部門では、1975年以降TFPが横ばいで推移しており、生産の効率化が遅れている様子が伺えます。
図2 1都6県における全要素生産性(TFP)の推定値(1975~2012年)
注:産業部門は、農林水産業、鉱業、建設業、製造業から構成される。業務部門は、産業部門に含まれない業種をすべて含む。
少子高齢化が進む日本では働き手が減少するため、生産性の伸び悩みは経済成長の停滞に直結します。図3は1都6県の域内総生産(実質)を2050年まで推計した結果です。TFPが緩やかに上昇する生産性低迷ケース(図3b)の場合、1都6県全体の経済成長率は2030年代にマイナスとなり、生産が拡大から縮小に転じます。域内総生産の合計は2020年代後半にピークを迎え、2050年には2000年代後半の水準まで減少する見通しです。一方、TFPが飛躍的に上昇する生産性向上ケース(図3a)の場合、1都6県全体の経済成長率は徐々に低下するものの、2050年まで生産の拡大が続きます。域内総生産の合計が減少に転じる時期は、生産性低迷ケースよりも遅くなる見通しです。これらの分析結果は、生産性を大幅に向上させないかぎり、地域経済の成長が見込めないことを示唆しています。
図3 1都6県における域内総生産の将来見通し(1975~2050年)
注:1975~2012年は実績値、2013~2050年はモデル推計値。域内総生産は実質値(2000年固定価格)である。人口シナリオは日本SSPの現状維持ケース(JPNSSP2)による。(a)各都県の全要素生産性(TFP)が飛躍的に上昇する未来を想定。(b)各都県のTFPが緩やかに上昇する未来を想定。
謝辞
本研究は(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費JPMEERF20182005(代表:松橋啓介室長、国立環境研究所)の支援を受けています。
本研究の担当者は、本城慶多です。
推計結果のダウンロード
本研究の成果は、査読付きのオープンアクセス誌(Honjo et al. 2021.)に発表しています。また、47都道府県の推計結果はMendeley Dataで公開しています。非専門家による利用を想定し、推計結果の一部を本ページで公開します。下記のリンクからダウンロードし、同梱した補足事項を確認の上でご利用ください。
データ利用時の注意事項
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