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気候変動コラム「蛇足の靴」 #6 「米騒動と気候変動適応策」           

 

 

 このところの米不足の問題は、令和の米騒動という様相を呈しています。原因不明のまま日本人の主食である米が不足し、値段が従来の2倍以上に高騰しました。この結果、消費者はもとより、外食業の方々などの生活を圧迫し、政府は遂に備蓄米を放出しました。しかし、その効果も直ぐには現れないようです。

 ご案内のとおり、観測史上最も暑い年の記録が2年連続で更新され、猛暑の様々な影響が顕在化しつつあります。夏期に著しい高温に見舞われると白未熟粒が発生するなど米の品質低下が起こることは本県では2010年に経験済みです。また、高温の影響でカメムシなど稲の害虫が大量発生し、米の品質や収量に影響を及ぼす場合もあり、これらの要因で流通量が減少することが懸念されます。

 グラフは、1980年からの米の収穫量と作況指数の推移を表しています。1984年以降は、1993年を除いて、作況指数は大きくは変化していないのに、収穫量が徐々に減少傾向を示しています。これは2017年まで行われていた減反政策やその後の「生産の目安」の設定による供給調整政策の影響と思われます。ちなみに1993年は冷夏により収穫量が著しく落ち込み、平成の米騒動が発生したことを覚えている方も多いと思います。

 

 では、2024年産に関する令和の米騒動の原因は何なのでしょうか。2024年産主食用米収穫量は約679万トンで、前年産比で約18万トン増加しており、作況指数も101で平年並みだそうです。農林水産省が昨年の高温による米への影響について、各都道府県を通して聞き取り調査を行ったところ、2024年産の一等米比率は、2023年産に比べ、北・東日本の多くの産地で上昇し、西日本の多くの産地で低下が見られたものの、全国平均は75.9%で平年並みであったとのことです。

 なぜ、異常高温にも関わらず、ほとんど影響が出なかったのか、その一番の要因は高温耐性品種の栽培のようです。近年、気候変動への適応策として、品種改良により各地で暑さに強い米が生まれ、徐々にその栽培が広がっています。例えば、2024年産の一等米比率の埼玉県内平均は36.4%ですが、高温耐性品種である「彩のきずな」は50.4%、新たに登場した「えみほころ」は61.8%でした。このほか、水管理や施肥管理、病害虫防除などの対策を徹底したことで、高温による米への影響を回避することができたようです。このように気候変動の適応策が成果を上げつつあることを喜ばしいことです。と同時に、生産者の方々のご尽力・ご苦労には頭が下がる思いです。

 となると、今回の米騒動は何故発生してしまったのでしょうか。その一因は、今も続く供給調整政策による微妙な需給バランスの下、生産者、集荷業者(JAなど)、卸し業者、小売業者・外食業者、そして消費者という複雑な流通ルートのどこかに、米が足りなくなるという不安感などによる滞りが発生したのではないかと推察されます。いずれにしても、令和の米騒動は、平成の米騒動のような天災ではなさそうです。

筆者プロフィール】

星野 弘志 氏 (NPO法人環境ネットワーク埼玉 代表理事)

元埼玉県環境部長。現在はNPO法人環境ネットワーク埼玉(埼玉県地球温暖化防止活動推進センター)の代表理事、埼玉県環境科学国際センター客員研究員を務めるほか、埼玉グリーン購入ネットワーク会長、埼玉環境カウンセラー協会副会長などとして幅広く環境啓発活動などに取り組む。


◎星野氏経歴の詳細はこちら: (環境カウンセラーのサイトに移動します) 

https://edu.env.go.jp/counsel/counselor/2012111001


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