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気候変動コラム「蛇足の靴」#10 「気候変動と司法」

 連日、各地で40℃超えを記録しています。7月5日は、全国14地点で40℃台と史上初の記録とのこと。なんと群馬県伊勢崎市では41.8℃と歴代最高気温を0.6℃も更新する暑さとなりました。フェーン現象の影響もあったようですが、気候変動の影響が年々、厳しさを増してきているようです。

 気候正義(クライメイト・ジャスティス)という言葉があります。 気候変動の影響や負担、利益を公平・公正に共有し、弱者の権利を保護すべきという人権的な考え方です。その背景には、気候変動のより深刻な影響を受けるのは、CO2などの温室効果ガス(GHG)を大量に排出している先進国や新興国ではなく、島嶼国などの途上国であるという地域的な不公平・不公正があります。また、今後さらに過酷化が見込まれる気候変動の影響を受けながら生きてゆかなければならないのは、これまで多量のGHGを排出し、便利で快適な生活を謳歌してきた大人世代ではなく、若者世代であるという世代間の不公平・不公正があります。

 こうした状況のなかで、この気候正義の思想に基づき、世界各地で若者を中心とした人々が訴訟を起こすようになりました。気候訴訟と呼ばれています。ドイツでは、2020年2月、気候変動対策を求める「未来のための金曜日(Fridays For Future)」に参加する若者らが、2019年「気候保護法」の2030年目標は不十分であり、未来の自分たちの憲法上保障されている基本的権利を侵害しているとして、ドイツ連邦憲法裁判所に提訴し、2021年3月には、気候保護法は、一部違憲との判断が示されました。

 韓国でも、2020~22年、若者や市民らが、政府の目標は健康に生きる権利や環境権などを保障しておらず違憲であるとして、3件の訴訟を起こし、2024年8月、憲法裁判所は一部違憲との判断を下しました。

そして、日本でも2024年8月、全国16人の若者が、CO2の排出削減を求めて国内の主要な火力発電事業者10社を相手に名古屋地裁に提訴しました。

 国際的な司法機関も動き始めています。 国際海洋法裁判所は2024年5月、大気中への人為的なGHGの排出は「海洋環境汚染」にあたると判断し、日本を含む国連海洋法条約の締約国には「必要なあらゆる措置を講じる義務がある」と指摘しました。

 そして、今年、国際司法裁判所(ICJ)は7月23日、気候変動を生態系と人類にとっての「緊急かつ存続にかかわる脅威」と位置づけ、各国は化石燃料の使用による人為的なGHGを減らし、気候を保護する法的義務があるとする勧告的意見を発表しました。不法行為が続く場合は、被害を受けた国に対する賠償の責任を負う可能性があると踏み込んだ内容です。この勧告的意見に拘束力はありませんが、今後の気候訴訟に大きな影響を与える可能性があると言われています。

 気候変動は、その深刻さの度合いが新しいステージに入った感があります。それに合わせて気候変動の緩和策と適応策も新たなステージへと大きくレベルアップさせる必要があります。今、灼熱の地球環境の法廷に大きな木槌の音が響き渡りました。気候変動対策に真摯に取り組まない国や社会や組織に対して判決は下されました。「ギルティ!」

筆者プロフィール】

星野 弘志氏 (NPO法人環境ネットワーク埼玉 代表理事)

元埼玉県環境部長。現在はNPO法人環境ネットワーク埼玉(埼玉県地球温暖化防止活動推進センター)の代表理事、埼玉県環境科学国際センター客員研究員を務めるほか、埼玉グリーン購入ネットワーク会長、埼玉環境カウンセラー協会副会長などとして幅広く環境啓発活動などに取り組む。

◎星野氏経歴の詳細はこちら: (環境カウンセラーのサイトに移動します) 

https://edu.env.go.jp/counsel/counselor/2012111001

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