2025-10-28
#13「ベア・クライシス」

埼玉県も含めて全国各地でクマの出没情報が増加しています。特に学校や保育所の近隣、公園などを含め市街地へのクマの侵入が相次ぎ、里地はもとより、それに隣接する市街地でも恐怖心が広がっています。
図‐1のとおり本年度の被害者数も増大しています。過去最大だった2023年度に迫る勢いです。特に死者数は10月23日現在で10人と過去最悪となってしまいました。2023年度も市街地へのクマの侵入が相次ぎ、「OSO18/アーバンベア」という言葉が流行語大賞の一つに選ばれた程です。今年はさらにエスカレートし、もはや「ベア・クライシス」といった様相を呈してきています。

この問題の背景には、同様に深刻化している夏の高温などの異常気象があり、その一因として地球温暖化の影響があるようです。クマの餌となるブナの実などのドングリは気象条件により年によって豊作と凶作の波があります。凶作のときは、クマは餌を求めて里地などに下りてくるとのこと。異常気象が今年のように凶作の程度を顕著にしているようです。暖冬などにより冬の終わりが早く、餌が十分でないうちにクマが冬眠からさめて、餌を求めて里地に下りてくるという指摘もあります。さらに冬に雪が少なく、生息可能域が拡大し、クマの生息数が増えているといったことが重なり合って、里地や市街地へのクマの侵入が増大しているようです。
もちろん、ベア・クライシスが発生した背景には、こうした自然環境の変化だけはありません。私たち人間社会側の問題も大きく影響しています。高齢社会となり里地の過疎化が著しく進み、耕作放棄地などが増加して、人と野生動物との棲み分けの境界線が後退したり曖昧になってきているのも要因の一つのようです。また、高齢化はハンターの数の減少にも影響を与え、クマの捕獲圧の低下といった要因を生んでいます。さらには、クマのエサとなりうるゴミの管理の問題や「春グマ駆除」の原則禁止といった行政方針の影響が大きいという意見も聞かれます。
東京農工大学の研究グループは、過去約40年間の大型哺乳類6種(ツキノワグマ、ヒグマ、イノシシ、ニホンカモシカ、ニホンザル、ニホンジカ)の分布域を調べ、各種の分布の変化にどんな因子が影響を及ぼしているのかを検証しました。2023年に公表された結果では、6種の大型哺乳類全ての分布は急速に拡大しており、こうした現象の原因には人口減少の加速と気候変動の進行があることを明らかにしました。
同研究グループは、「分布が拡大する原因や生息域に必要な条件は種ごとに異なり、今後の生息拡大の予測も種ごとに検討する必要がある。これらの大型哺乳類とヒトとの共存を実現していくためには、これまでの管理政策を実施するだけではなく、行政での野生動物管理の専門知識を持った職員の配置や地域住民への正しい情報の普及啓発などを計画的に、そして継続的に行っていくことが必要である。」と指摘しています。

図‐2は、そんな自然界と人間社会の関係を摸式化したものです。気候変動、人口減少、高齢社会という大きな社会変化のなかで、人とクマなどの大型哺乳類との共生対策の遅れを象徴しているのが、人もクマも被害者となっている今日のベア・クライシスではないでしょうか。

【筆者プロフィール】
星野 弘志氏 (NPO法人環境ネットワーク埼玉 代表理事)
元埼玉県環境部長。現在はNPO法人環境ネットワーク埼玉(埼玉県地球温暖化防止活動推進センター)の代表理事、埼玉県環境科学国際センター客員研究員を務めるほか、埼玉グリーン購入ネットワーク会長、埼玉環境カウンセラー協会副会長などとして幅広く環境啓発活動などに取り組む。
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