2025-12-01
#14「COP30と環境危機時計」

「環境危機時計」をご存じでしょうか。環境の危機の切迫度合いを0時から12時までの時計の針の進み具合で表したものです。公益財団法人旭硝子財団がリオデジャネイロで地球サミットが開催された1992年から毎年実施しています。世界各国の政府・自治体、NGO/NPO 、大学・研究機関、企業、マスメディア、民間等の環境問題に関する有識者にアンケート調査を行い集計するものです。
2025年の調査結果は、図1のとおり「極めて不安」領域の初期である9:33となりました。昨年より6分進み、7:49であった1992年よりも1時間44分も進んだことになります。

興味深いのは、図2の地域別の集計結果です。日本は9:39と世界平均に近く、昨年より2分進みました。オセアニアで23分、中東で34分と大きく時刻が進みました。2024年のオーストラリアでは冬である8月の気温が記録的に高かったこと、中東のサウジアラビアのメッカで6月に51.8℃になり大巡礼で約1,300人の死者が出たりしたことが影響しているのかもしれないとのことです。西欧は、2年連続で時計の針が10分以上進みました。2023年、2024年と猛暑が続いたことやロシア・ウクライナ戦争の長期化によるエネルギー供給の不安定化などが影響していると推察されています。

私が注目したのは北米です。昨年から9分も進み10:26と日本より1時間近く不安度が高い結果です。これはパリ協定からの離脱表明など次々と環境対策を後退させている現政権の影響でしょうか。現政権を支持する米国の一般世論と環境問題の有識者との間で分断が進みつつあることが懸念されます。
今後、この環境危機時計の針はどのように動くのでしょうか。本年11月に第30回気候変動枠組み条約締約国会議、いわゆるCOP30がブラジルのアマゾン川河口のベレンで開催され、22日に閉幕しました。地球サミットと同じブラジルの地で、第30回という節目の開催でもあり、環境危機時計の針を何分かでも戻す機会になることが期待されたところです。
しかし、米国は代表団さえ派遣しないなど出だしから暗雲が立ち込めた感があります。3つの大きな議題である「①災害対応資金の増額」「②削減目標の強化」「③化石燃料からの脱却の工程表づくり」の合意に向け議論が続けられました。その結果、会期を1日延長して、やっと合意文書がまとまりました。①については、途上国の要求レベルに先進国が応じかね、「努力目標」という曖昧な表現になりました。②は逆に先進国の要求レベルに途上国が応じかねるという状況だったようで、各国が提出した2035年の削減目標を加速するため26年までに報告書をつくるという形で先送りされました。そして、温暖化を食い止めるために肝心な③については、主催国ブラジルが80か国以上の賛成を取りまとめたものの、ロシアやサウジアラビアなどの産油国が強固に反対し、一部の途上国や石炭火力を進める日本も消極派に回ったこともあり、決定には至りませんでした。
京都議定書が採択されたCOP3、パリ協定が採択されたCOP21、1.5℃目標で合意したCOP26など世界の温暖化対策を牽引してきたCOPも残念ながら環境危機時計の針を戻すことも遅らせることもできなかったようです。来年の針はどこまで進むのでしょうか。

【筆者プロフィール】
星野 弘志氏 (NPO法人環境ネットワーク埼玉 代表理事)
元埼玉県環境部長。現在はNPO法人環境ネットワーク埼玉(埼玉県地球温暖化防止活動推進センター)の代表理事、埼玉県環境科学国際センター客員研究員を務めるほか、埼玉グリーン購入ネットワーク会長、埼玉環境カウンセラー協会副会長などとして幅広く環境啓発活動などに取り組む。
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