2026-04-30
#19「ホルムズ海峡 冬景色 ~エネルギー危機と脱炭素化~」

ホルムズ海峡に冬景色はありませんが、封鎖を巡り緊迫する海峡は寒々とした冬景色を想起させます。一つの海峡の異変だけで、我が国のエネルギー状況は大きく混乱し、その脆弱性を露呈させています。私たちは、自国のエネルギー自給率がかなり低いという知識は持っていても、普段はその実感はありません。ちなみに、原子力を国産とみなした自給率は15.3%(2023年度速報値)です。この機会に海外依存のエネルギーの実態をもう少し詳しく覗いてみましょう。
まず、一次エネルギーと言って、人為的な加工や変換を加えないエネルギー源の供給状況です。2024年度の一次エネルギーの国内供給構成は、石油34.8%、石炭24.4%、天然ガス・都市ガス20.8%と化石燃料が80%を占め、20%が水力・風力・太陽光などの再生可能エネルギー(再エネ)と原子力です。1990年代以降、地球温暖化対策として「脱石炭」「脱石油」を志向してきたものの、石油がいまだ最大のエネルギー源となっています。
次に一次エネルギー源について、その輸入先を下図から見てみましょう。

まず、石油はアラブ首長国連邦、サウジアラビア、クエートなど中東諸国が上位を占めています。中東依存率は95.9%に達しています。オマーンのようにホルムズ海峡を通らなくても輸出できる国もありますが、今日の状況を如実に物語る数字です。石炭は中東ではほとんど採掘されていませんので、オーストラリア、インドネシアなどが主な輸入先です。天然ガス、LPガスはかっては中東依存率が高かったのですが、現在の主な輸入先は、LNGはオーストラリア、マレーシアなどであり、LPガスもシェールガス革命により採掘量が増えたアメリカが断然トップです。このように石油以外は中東依存率が低く、中東情勢の緊迫化は、供給量にはほとんど影響がないようです。しかし、輸入契約の多くが石油価格連動性であるため、価格面では大きな影響を与え、円安とともに価格上昇の原因となっています。
一次エネルギーを加工・変換して得られる二次エネルギーである電力はどうでしょうか。2024年の電源構成(NPO 法人環境政策エネルギー研究所による推計値)は、天然ガスは29.1%、石炭は28.2%ですが、石油は1.4%と極わずかです。加えて、自国のエネルギー源である太陽光は11.4%、水力7.9%、バイオマス5.9%、風力1.1%、地熱0.3%と再エネが合計で26.7%を占め、原子力8.2%と併せると34.9%になります。よって、電力は供給量では問題がないのです。このように地球温暖化対策として再エネ等の割合を高めることは、同時にエネルギー自給率を高め、エネルギーセキュリティ(安全保障)を強化することを今回の事態が教えてくれます。再エネ等の割合は徐々に増えているものの、まだまだ十分ではありません。2050年に脱炭素社会を実現するには、一次、二次の両面で化石燃料からの脱却を加速させる必要があります。
しかし、今回の事態は、もう1つ重要なことを教えてくれます。それは、エネルギー面での脱炭素、脱石油を進めると同時に、化学工業の面でも脱石油化を進める必要があることです。

上図のように、石油(原油)は精製され、ガソリン、ナフサ(粗製ガソリン)、灯油、軽油、重油などが生産されます。今回の石油危機により注目されているのが「化学工業の米」と言われるナフサです。ナフサはさらに基礎製品に分解され、化学反応によってプラスチックや合成繊維、合成ゴム、塗料などの誘導品へと姿を変え、さらに私たちの身の回りの多くの製品を生み出しています。我が国は、輸入原油から精製するナフサだけでは足りずに、全需要の約6割はナフサ自体を中東などから輸入しています。今回の事態によるナフサの供給不足が様々な製品の供給不足や価格上昇を招き、各方面に深刻な影響を及ぼしつつあります。
今後、脱炭素社会づくりの一環として、エネルギー源としての石油の使用を減らして行けば、おのずとナフサの生産も減り、それを原料とする化学製品の製造も減らさざるを得ません。このことに対応していくためには、代替品の開発・普及や循環経済対策をさらに推進していく必要があります。脱炭素社会づくりは、エネルギーと化学原料の両方を睨みながらバランスよく進めていく必要があるのです。しかし、そのシナリオを私たちの社会はまだ描けていません。
ホルムズ海峡を吹く風は、私たちにいろいろなことを語りかけています。

【筆者プロフィール】
星野 弘志氏 (NPO法人環境ネットワーク埼玉 代表理事)
元埼玉県環境部長。現在はNPO法人環境ネットワーク埼玉(埼玉県地球温暖化防止活動推進センター)の代表理事、埼玉県環境科学国際センター客員研究員を務めるほか、埼玉グリーン購入ネットワーク会長、埼玉環境カウンセラー協会副会長などとして幅広く環境啓発活動などに取り組む。
◎星野氏経歴の詳細はこちら: (環境カウンセラーのサイトに移動します)
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