2026-06-30
#21 「トクリュウ」と「りくりゅう」~気候変動は匿名型違法行為?~

昨年の熱中症による救急搬送者数は遂に10万人を突破し、死者数は1,500人を超える状況となりました。さらに暑さ関連死は、その約7倍に上るとの研究結果も発表されています。昨年7月のコラムで紹介しましたように国際司法裁判所は「各国は化石燃料の使用による人為的な温室効果ガスの排出を減らし、気候を保護する義務がある」との勧告的意見を出しました。気候変動に対して有効な対策をとらないことは、もはや違法行為であると言えるのではないでしょうか。
では、この違法行為はどんな構造なのでしょうか。かなりのこじつけがあるかもしれませんが、最近、話題になっている匿名・流動型犯罪グループ・「トクリュウ」に似ているように思えます。
トクリュウでは、首謀者、指示役、実行役など様々な人物が関係し、犯罪ごとにメンバーが変わる流動性があり、なにより首謀者や指示役が表に出ないという匿名性が問題となっています。
地球温暖化は、二酸化炭素、メタンなどが法律で温室効果ガスとして指定され、削減対象になっています。表-1は、産業革命から現在までの法定温室効果ガスの温暖化寄与率の推計例です。ご存じのように寄与率が最も高いのが二酸化炭素(CO2)であり、温暖化の主犯はCO2だと言われています。しかし、実際に気温が上昇する機構はもう少し複雑です。

表-2は、地球の気温上昇を招いている物質とその寄与率の推計例です。ご覧のように水蒸気が48%で、雲と合わせると67%にもなり、二酸化炭素の21%と比べて、はるかに温室効果が大きいという結果になっています。「えー、CO2が主犯じゃないの?」と驚く方もいるかも知れません。


そんな方はCO2と水蒸気の関係を表す図-1をご覧ください。
化石燃料の燃焼など人為的な原因で排出されたCO2により、気温が上昇します。それにより海水が温められ、海面からの水の蒸発が増え、大気中の水蒸気濃度が高まります。それにより、さらに気温が上昇するという仕組みなのです。図-1はCO2が倍になったときの気温上昇の計算結果だそうです。実行犯としては、水蒸気の方が実際の関与が大きいわけです。しかし、気温上昇の引き金となっているのはCO2であり、いわば指示役兼実行役がCO2なのです。私たちはエネルギー使用量を効率化にしたり、CO2を排出しない再生可能エネルギーを増やしたりして、CO2排出量を削減することができます。しかし、水蒸気量を直接コントロールすることはできません。したがって、私たちが削減できるCO2やメタンなどを法律では温室効果ガスと定め、削減を進めているのです。
指示役兼実行役が判明したところで、さて、首謀者は誰なのでしょうか。呼吸によりCO2を排出していない動物はいませんので、動物全員が首謀者なのでしょうか。今、問題になっているのは、そんなCO2ではありません。エネルギー源としての化石燃料の使用やセメント製造などにより、自然の吸収量を超えて人為的に排出されるCO2です。なかでも、化石燃料などを野放図に使い続けている人々や組織がどうも首謀者と言えそうです。しかし、こうした不特定多数の人や組織を首謀者として特定するのは極めて難しい状況です。この不特定多数という匿名性が気候変動対策を遅らせている一番の元凶と言えるのではないでしょうか。大企業などにはCO2排出量の公表が義務付けられたり、埼玉県が2011年から実施している排出量取引を含む削減制度も今年度から法律により全国でスタートすることになりました。匿名性のカーテンは徐々に開けられつつありますが、まだまだ大きな隠れ蓑です。
では、こうしたトクリュウ的な問題に立ち向かうには、どうしたらいいのでしょうか。ここで「りくりゅう」の登場です。本年2月のミラノ・コルティナオリンピックで金メダルを獲得したフィギュアスケートペアの三浦璃来さんと木原龍一さんこと「りくりゅう」ペアは、多くの困難を乗り越えて頂点に上り詰めました。これを可能にしたのは、二人の素晴らしいパートナーシップだと思います。気候変動のような匿名性の高い問題でも、市民と市民、市民と行政、行政と企業、国と国など様々な段階・組み合わせでのパートナーシップを強化し、当事者意識を醸成していけばきっと乗り越えていけるはずです。
ちなみに、ネットの大喜利(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13325443223)で、こんな名回答を見つけました。「失敗を乗り越えて金(きん)を手にするのがりくりゅう、金(かね)を求めて失敗に終わるのがトクリュウ」 トクリュウはいつも失敗に終わり、りくりゅうのようなパートナーシップで取り組む気候変動対策は成功に向かって邁進してほしいものです。

【筆者プロフィール】
星野 弘志氏 (NPO法人環境ネットワーク埼玉 代表理事)
元埼玉県環境部長。現在はNPO法人環境ネットワーク埼玉(埼玉県地球温暖化防止活動推進センター)の代表理事、埼玉県環境科学国際センター客員研究員を務めるほか、埼玉グリーン購入ネットワーク会長、埼玉環境カウンセラー協会副会長などとして幅広く環境啓発活動などに取り組む。
◎星野氏経歴の詳細はこちら: (環境カウンセラーのサイトに移動します)
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